マイクロファイナンスは、貧困層や低所得者層を対象に、貧困緩和を目的として展開されている金融サービスです。これは、世界中で導入が進む金融包摂の一環として重要な役割を果たしています。この記事では、マイクロファイナンスの概念、役割、および具体的なメカニズムについて詳しく解説します。さらに、最近の傾向と日本の企業がこの分野でどのように関与しているかについても触れます。
マイクロファイナンスとは
マイクロファイナンスは、東南アジアやインドなどの新興国を中心に展開されている小規模な金融サービスであり、低所得者や貧困に苦しむ人々向けに提供されています。この概念は、マイクロファイナンスという用語が登場する前から存在し、世界各地で利用されてきました。例えば、少額の融資、相互に金銭を融通し合う金融組合、農作物や物品と金銭を交換する質屋など、多様な形態があります。しかし、これらの小規模金融サービスを利用することが困難な貧困層も多く、返済の滞りや破産するケースも見られました。そのため、無担保融資、融資以外の保険・貯蓄制度・補助金提供など、従来とは異なる形態の小規模金融が広まりました。融資に限らず、多様な側面から貧困緩和を目指すサービスが展開され、「マイクロファイナンス」という新たな呼称が定着しました。
マイクロファイナンスが世界的に注目を集めたのは、バングラデシュのグラミン銀行の成功によるものです。グラミン銀行は無担保の少額融資、「マイクロクレジット」を提供し、そのビジネスモデルを世界中に広めました。グラミン銀行の成功を皮切りに、貧困層や低所得層向けの金融緩和策が活発になり、マイクロファイナンスの普及が進みました。
マイクロファイナンスの役割
マイクロファイナンスが果たす役割を一言でいえば、貧困世帯が借入・返済できるような環境を整え、生活に必要な金融支援を行うことで貧困からの脱却を支援することでしょう。
貧困層や低所得層の事情は多様ですが、雇用機会の少ない地域では家族で自営業を営み生計を立てる必要があります。しかし、開業資金の調達が難しいため土地や建物、設備の準備などは容易ではありません。また、仮に開業できたとしても、収入は不安定で事業の拡大は大変難しいものです。
さらに、貧困、低所得者層は低収入に伴い貯蓄も少なく、また保険に加入し万が一の備えをすることもままなりません。運悪く自然災害が発生すると住居を失うだけでなく同時に仕事もできなくなり、生活がさらに困窮することもあります。
このような状況に関する貧困、低所得者層への支援として、多くの地域や国でマイクロファイナンスが必要とされています。マイクロファイナンスにより、所得が少なく安定しないために、信用力が低くて資金調達も難しい人々でも借入が可能になり、自営業の開業や拡大に伴う収入の安定化に加えて、社会保障の恩恵を受けられるようになることで貧困からの脱出が可能になることが期待されています。
さらに、マイクロファイナンスは教育や健康サービスへのアクセス改善にも寄与しています。小規模ながら効果的な融資を通じて、貧困、低所得者層が自立し、持続可能な生活を送る基盤を築く手助けをしています。教育プログラムや医療サービスへの資金提供も含まれることがあり、これにより社会全体の生活水準の向上が期待されます。
このように、マイクロファイナンスは単に金融サービスを提供するだけでなく、貧困緩和と経済発展に貢献する多面的な役割を担っています。それは、持続可能な開発目標(SDGs)達成への重要なステップともなっており、世界中でその価値が認められています。
マイクロファイナンスの仕組み
マイクロファイナンスと他の金融サービスとの違いについて解説します。
マイクロファイナンスを提供する組織には、銀行や信用組合、NGO、NPOに加え一部の企業も含まれます。資本調達の方法は組織によって異なりますが、一般的に以下の手段が用いられます。
- 国や政府からの支援金
- 銀行からの融資
- 寄付金
- 株式発行
- ファンド出資
これらの出資金をもとに、信用度の低い個人でも融資を受けられるよう環境を整備し、返済可能な利率や期限を設定して、資金の流動性を高めます。近年は、電子送金や保険、少額預金制度などのサービスが増加し、より多くの融資が可能になっています。 特に知名度が高く、多くの国や地域で採用されているのがグラミン銀行のビジネスモデルです。グラミン銀行が開発したマイクロクレジットにより、多くの個人が少額融資を受けることができるようになりました。ここでは、グラミン銀行の手法とそのメリットについて詳しく解説します。
グラミン銀行のビジネスモデル
バングラデシュのグラミン銀行は、グループ単位での貸付制度を採用しています。このグループ貸付は以下の手順で行われます。
- 融資を希望する人々が5名ごとにグループを形成する。
- 銀行が定めるルールや貸付に対する心構えについて研修や試験を受ける。
- 認められたグループのみが無担保で融資を受けられる。
- 全員に融資するのではなく、順番に少額の融資を行い、最初の利用者が返済すると次の人が融資を受けられる。
- 1~2週間の短い返済サイクルで資金を循環させ、全員が融資を受けられるようにする。
グループは家族や親族など血縁関係のある人同士で組むことは認められておらず、他人同士の5名で1グループを構成します。また、誰かが返済できなくなると、次の人への融資が停止されるシステムです。この制度はグループ内での連帯責任を生み出し、互いに支え合って返済する姿勢を育んでいます。何度もサイクルを成功させたグループは信用度が上がり、融資上限額の引き上げなどが可能になります。これにより、利用者には所得を増やす機会が提供されます。グラミン銀行式のビジネスモデルはこれらの仕組みにより成功を収め、世界各国で導入されています。
グラミン銀行のビジネスモデルにおけるメリット
グループ貸付の大きなメリットは、借入と返済のサイクルを円滑に行える点です。この背景には、グループ内の人間関係や監視制度があります。
まず、グループを組む際には、返済が滞る可能性のある人とは組みたくないという人間心理が作用します。また、知人同士でグループを形成することが多く、「仲の良い人に迷惑をかけたくない」という思いから自己管理を強化します。結果として、期限を守って返済する人同士が同じグループに集まり、高い信頼性を持った借り手が自然に集まることになります。
グループ内では、メンバーが互いの返済状況や融資の使い道をチェックし合います。この相互監視により、問題が早期に発見され、返済遅延を防ぐ効果があります。
さらに、マイクロクレジットの主な利用者が女性であることから、女性の社会進出や地位向上にも寄与しています。このように、グラミン銀行の仕組みは多くのメリットを生み出し、世界的に高い評価を受けています。2006年には、その創始者であるムハマド・ユヌス氏がノーベル平和賞を受賞しました。
マイクロファイナンスの成長のための民間投資
1990年代に登場した「マイクロファイナンス投資ビークル(MIVs)」は、マイクロファイナンスに関心を持つ先進国の投資家が資金を仲介する投資法人や投資ファンドであり、マイクロファイナンス機関(MFIs)への資金提供を行います。もともと資金源を民間団体からの寄付や政府系金融機関の援助に頼っていたMFIsは、MIVsを通じて金融機関や民間企業がマイクロファイナンスのサービスを投資商品として展開することで、資金の確保がそれまでよりも安定し事業を持続的に成長させられるようになりました。例えば、メキシコのコンパルタモス銀行はMIVsによる支援で事業を拡大し、NGOから銀行へと転換しました。
一方、MIVsには問題点もあります。利益追求により一部のMFIsへの投資が集中したり、不良債権の増加によりMFIsが存続できなくなるケースもあります。それでも、マイクロファイナンスの持続的成長にとって、民間の資本は重要であり、MIVsやMFIsは本来の金融包摂の観点からも運用を適切に行うことで社会課題の解決に寄与することが期待されます。
日本企業のマイクロファイナンスへの関わり
専門の機関はまだ多くないものの、日本でもいくつかの企業や金融機関が資金提供に取り組んでいます。特に注目されているのは、「五常・アンド・カンパニー株式会社(以下、五常)」の活動です。
五常は新興国に位置する複数のマイクロファイナンス機関を子会社化し、クラウドファンディングを通じた日本国内の一般投資家からの資本調達と融資を実施しています。資本調達や資金の回収が難しい中、五常はグローバルなグループ展開を通じてリスクを分散し、長期にわたって事業を継続できる体制を築いています。
この会社はグラミン銀行のマイクロクレジットモデルに基づいたグループ貸付を採用し、特に女性を融資対象としています。信頼関係のある人々がグループを形成し、相互に返済を促進する体制が確立されています。女性への融資により、女性の社会進出を支援し、子供たちの教育機会を増やすことが可能になります。五常の取り組みにより、日本国内でもマイクロファイナンスに対する関心は今後さらに高まるでしょう。
まとめ
マイクロファイナンスは、マイクロクレジット(少額融資)に始まり、保険、貯蓄形成、電子送金など貧困問題解決へのアプローチとして重要な金融サービスです。法的課題や資本調達・融資金の回収のリスクが存在するものの、国内外の企業や団体がマイクロファイナンス事業を展開し、持続可能な社会の実現に貢献しています。
※参考:外務省「バングラデシュ小規模金融(マイクロ・クレジット)を活用した貧困緩和への支援」
※参考:アジア経済研究所「マイクロファイナンス 貧しい人々に、無担保で小額の資金を」
※参考:独立行政法人国際協力機構国際協力総合研修所「マイクロファイナンスへのJICAの支援事例分析」
※参考:東証マネ部「五常・アンド・カンパニーが目指す「民間版の世界銀行」」
(by あなたのとなりに、決済を編集チーム)
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