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金融包摂(ファイナンシャルインクルージョン)とは|FinTechが促進のカギ

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金融包摂(きんゆうほうせつ:ファイナンシャルインクルージョン)とは、さまざまな理由で金融サービスから取り残された人々が経済的に安定した暮らしができるよう、基本的な金融サービスへのアクセスをサポートする取り組みです。
インターネットやスマートフォンの普及で、銀行口座を通さない個人預金や送金が可能になった現代。各国における金融包摂の取り組みや課題について詳しく解説します。

金融包摂(ファイナンシャルインクルージョン)とは

金融包摂(きんゆうほうせつ)とは、Financial Inclusionの日本語訳です。金融包摂は社会包摂から派生した言葉でもあり、すべての人々に経済活動を行える機会を与えられ、経済的に安定した状況を目指し、それに必要な金融サービスへのアクセスや利用をサポートするものです。
例えば、日本ではイメージしづらいかもしれませんが、世界的には銀行口座が保有できたり、正規の銀行から融資を受けられる層は限られています。世界的に見ると、銀行口座を持たない成人の数は2011年の25億人から減ってはいますが、まだ約14億人存在しています。

金融包摂は世界的な課題として注目されている

新興国の経済包摂に取り組む独立系シンクタンクの研究によると、金融包摂が進むと人々の生活の質の向上だけではなく、経済活動の促進に繋がり、他の社会サービスの提供や民間セクターの開発課題の取り組みへの貢献ができる可能性が高まるとされています。
2009年に始まったG20金融包摂専門家グループは、途上国の貧困層と中小企業への金融アクセス支援を目指しています。2010年には、これを拡大する形で金融包摂のためのグローバル・パートナーシップが立ち上げられました。2020年、G20はデジタル金融を通じて若者、女性、中小企業の支援をテーマにポリシーを策定。2021年から2023年にかけて、デジタル金融と中小企業金融を優先課題として取り組んでおり、各国の官民の好事例に基づく政策提案が作成されました。現在、2024年から2026年の行動計画の策定に向けた議論が進められています。

実は日本国内にも守られるべき人々が存在する

日本では成人の銀行口座保有率が高く、他国に比べて金融包摂の問題はそれほど深刻ではないと思われていました。しかし、実は日本国内にも高齢者や障がい者、外国人など守られるべき存在は多数あります。
彼らにも金融へのアクセスを提供するために、高齢者には生体認知や見守り・異常検知、重要書類の電子保管などの対応、また障がい者にはインターネットバンキングの音声読み上げ機能、外国人にはモバイル端末を通じた多言語翻訳サービスの提供なども行われています。

新興国と先進国それぞれの取り組み

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金融包摂は、新興国と先進国ではそれぞれ状況が異なるため、取るべき対策も異なります。新興国と先進国それぞれの取り組みについて見ていきましょう。

新興国の課題と各国の取り組み

世界銀行の「The Global Findex Database 2021」によると、銀行口座を保有していない成人の54%にあたる7.4億人はわずか7つの経済圏に住んでいます。 中国とインドは国の人口の多さから、世界に占める銀行口座を持たない成人の人口割合として多くを占めています(中国:1.3億人、インド:2.3億人)。この2か国に次いで多いのは、パキスタン(1.1億人)とインドネシア(1億人)です。
また、全世界の成人の13%にあたる約7.4億人の女性が銀行口座を持っておらず、男性よりも女性は銀行口座を保有しない傾向にあります。このように新興国においては、銀行口座の未保有者が多いことが課題の一つとなっています。

また、金融インフラの整備の困難さもあります。金融サービスを国内全土に広めるためには、店舗を多数設置したり、決済サービスのネットワーク整備など多額のコストがかかります。加えて海外の金融ネットワークに参加するためには、国際的なルールの対応やセキュリティ対策も必要になるでしょう。これらの投資は、新興国にとっては短期的に行えるものではありません。

しかし、スマートフォンなどのIT技術の発展により、低コストで金融サービスの提供を可能にできるようになってきています。つまり、FinTechによる金融包摂の実現です。

FinTechによる金融包摂の事例

例えば、昨今インドでは金融インフラ、FinTech発展が著しくあります。その背景には国民1人当たりのGDPが低く、銀行口座を作れない人がまだまだ多くいる状況が続く中、国を挙げてインド版マイナンバー制度ともいわれる「アーダール(Aadhaar)」の浸透を進めてきた背景があります。アーダールによる本人確認の仕組みが整ったことに伴い、銀行口座の開設が容易になりました。

加えて、政府・中央銀行が主導しスマートフォンから支払いや送金が24時間365日簡単にできる小口決済インフラ「UPIUnited Payments Interface)」が2016年に導入されインドのキャッシュレス化を推し進めています。併せて、これまで金融にアクセスできなかった層へのサービスを展開するFinTech企業も誕生しています。

さらにコロナ危機も新興国の人々の金融包摂の拡大を後押しする要因となりました。今まではモバイル口座の保有数は中国やインドが多かったのに対し、パンデミック以降はアフリカをはじめとしたその他の新興国各国でモバイル口座や電子決済を利用する人が増えました。

関連記事:インドのFinTech~副社長 村松竜による現地レポート~

先進国の課題と取り組み

2021年には、米国世帯の推定4.5%(約590万世帯)が「銀行口座を持たない」、つまり世帯の誰も銀行や信用組合の当座預金口座や普通預金口座を持っていませんでした。これは、2009年の調査開始以来最低の結果です。そこで金融包摂の取り組みとして、米国ではスマートフォンで給与を受け取ることができるサービスを提供するFinTech企業が登場しました。

このサービスでは従業員が働いた日数分の給料が即日送金さたり、自分の口座のお金はこのサービスと提携したATMから引き出しが可能です。また、自動積み立て預金を行ったり、公共料金の支払いをしたりするなど給与の受け取りだけでない周辺のサービスも利用することができます。

金融包摂を促進するカギはFinTech

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FinTechは、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせて作られた造語で、金融サービスとITを結びつけたさまざまな革新的なサービスの総称です。FinTechは、金融包摂を推進するうえで不可欠なものと考えられています。

例えば、インドネシアのFinAccelKredivo Froup)は、ECサイトの決済方法として後払い決済、分割払い、キャッシュローンサービスなどを提供しています。
都市部に住む人たちだけではなく、銀行口座は保有しているものの十分な金融サービスにアクセスできない「アンダーバンクト(Underbanked)」と呼ばれる人、今までクレジット系のサービスを利用したことがないため与信の元となるデータがないNew to Creditと呼ばれる人などにも利用されています。

またインドでは、経済的自立を促すため貧困層や低所得者層をターゲットに行われる小口融資、「マイクロファイナンス」が普及しています。例えば、日本企業の五常・アンド・カンパニーのインドにおけるグループ会社のSATYAは、インド農村部で銀行口座・預金を持てないといった金融サービスを受けられない人々に対してマイクロファイナンスの提供を行い、経済的自立の道を開いています。特にスマホアプリ等のテクノロジーを強みに、迅速かつ利便性の高い金融サービスや社会経済的な自立をもたらすサービスへのアクセスを提供することで、何百万人もの人々の貧困からの脱却を支えています。
金融包摂を支えるFinTechのテクノロジーを紹介します。

与信テクノロジー

審査基準が厳しい、紙の書類を提出しなければならないなど、今までの与信の仕組みではクレジットカードを保有できなかった人に対して、AIを使った与信テクノロジーにより独自のモデルで審査を行い、実は支払い能力がある人を見極め後払い決済サービスを提供するシステムです。

与信テクノロジーで選出された人の不良債権比率は、大手銀行のクレジットカードの不良債権比率より低く、非常に精度が高いテクノロジーといえます。

オンライン決済プラットフォーム

〇〇Payや後払いサービスなど、現金やクレジットカードによる支払いたけではなく、様々な企業がオンライン決済プラットフォームを構築し決済機能を提供しています。日本でも数多くの決済プラットフォームがあります。

オンライントレーディング

インターネットを使った証券取引です。FinTechにより個人投資家でも本格的なトレードをできるようになります。

クラウドファンディング

群衆(クラウド)と資金調達(ファンディング)を組み合わせた造語で、インターネットを通して不特定多数の人々から少額の資金を出資してもらうものです。

起案者の活動やプロジェクトの内容を発信し、共感した人や活動を支援したいと思った人が、寄付や購入、融資などの形で資金を提供します。

まとめ

金融包摂とは、すべての人が安定して金融サービスを受けられるよう支援する取り組みのことをいいます。十分な金融サービスにアクセスできない人は、新興国だけではなく先進国にも存在します。
金融包摂を促進させるには、金融サービスとテクノロジーを融合させたFinTechがカギといえるでしょう。国の仕組みや国民性などに合わせた技術を導入することで、多くの人が適切な経済的な支援を受けることが可能になります。

参考:世界銀行「The Global Findex Database 2021
参考:金融庁「金融庁の1年(2022事務年度版)」
参考:日本貿易振興機構「米国、銀行口座未保有世帯の割合が過去最低を記録」
参考:金融包摂の鍵となるFinTech - Nomura Research Institute

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