グリーントランスフォーメーション(GX)とは、地球温暖化をはじめとするさまざまな環境問題をテクノロジーの力を使って解決し、サステナブルな社会作りを目指す取り組みのことを指します。日本政府が宣言したカーボンニュートラルやSDGsを達成するためには欠かせないものといえるでしょう。
具体的にグリーントランスフォーメーションとは何か、注目されている背景や日本の取り組み、メリットなどを詳しく紹介します。
グリーントランスフォーメーション(GX)とは
グリーントランスフォーメーションとは、地球温暖化による自然災害や排気ガス、プラスチック問題など、私たちが抱える現在の環境課題を先端技術の力で解決し、持続可能な社会を作る取り組みを言います。また、グリーントランスフォーメーション(Green Transformation)はGXと略称で呼ばれることもあります。
2015年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)でパリ協定が採択されました。パリ協定では、産業革命以降の世界の平均気温上昇を1.5度以内に抑えるために、2030年までに温室効果ガスの排出量を2010年の約45%、2050年までに実質ゼロが目標として掲げられています。
2021年には、125ヵ国と1地域が2050年までのカーボンニュートラルの実現を宣言しています。日本も2020年、菅政権が2050年までのカーボンニュートラルの実現を宣言しました。しかし、企業が事業活動を行いながらすぐに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするのは不可能に近いことだと考えられています。そこで、あらゆるテクノロジーを使いながら、段階的に温室効果ガスの排出量を減らし、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて取り組みを行う動きが広がっているのです。
グリーントランスフォーメーション(GX)が注目される背景
グリーントランスフォーメーションが世界各国で注目されている理由として、以下の3つが考えられます。
急激な気候変動
近年地球温暖化による豪雨や森林火災、洪水、干ばつなど、かつてないような自然災害が世界各地で起きています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によると、2011〜2020年の間に1850年頃と比較して世界の平均気温が1.09度上昇しました。
気温の上昇は1950年以降続いており、このままの状態では2100年までに1850~1900年を基準として3.3~5.7度気温が上昇するといわれています。気温の上昇が続くと、現在よりもさらに深刻な自然災害が発生することも考えられます。自然災害は、国土の消失や食糧不足、健康被害などを引き起こし、経済活動や私たちの生活に大きく影響を及ぼすでしょう。
2021年に開かれた全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)の第1作業部会の報告によると、人間活動が地球温暖化を進めてきたことに疑いの余地はないとされています。つまり、私たちの生活や経済活動を変えることでしか、地球温暖化を止めることはできないということです。
アメリカと中国による脱炭素社会への転換の表明
世界の国の二酸化炭素排出量を見ると1位が中国、2位がアメリカとなっています。今までこの二国は、気候変動への国際的な取り組みに関しては非協力的な態度を取っていました。2019年11月、トランプ政権下でアメリカはパリ協定から離脱しました。しかし、2021年1月にバイデン政権に変わったことで、2035年に電力部門の脱炭素化の達成、2050年までにエミッションニュートラルな目標を発表しました。中国は、温室効果ガスの排出量増加は2030年まではやむを得ないという立場でしたが、2060年までにネットゼロエミッションな社会を達成すると宣言しました。
さらに2021年11月、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)において、アメリカと中国は今後10年間の気候変動対策に対する協力を強化すると共同声明を出しました。
二酸化炭素排出量トップの両国が脱炭素に積極的に取り組む姿勢を見せたことで、他の国々にもカーボンニュートラルに向けた動きが広がり、多くの国や地域が2050年までにカーボンニュートラル実現するために、さまざまな取り組みを始めています。
ESG投資の市場拡大
世界の投資家がESG投資を重視し、市場が拡大してきたこともグリーントランスフォーメーションが注目される背景といえるでしょう。ESG投資とは投資を行う際に、投資先の企業が環境や社会、企業統治に配慮しているかどうかを考慮して投資するものです。
ESG投資に取り組んでいる企業は、環境問題に配慮し地域社会との共存を目指すなど、長期的な視点で持続性や安定性を考えて事業活動を行っているといえます。そのため投資家にとっては、リスクを抑えながら長期的なリターンを確保する対象として適しているのです。
企業にとってもESG投資をアピールすることで、企業価値が向上し、金融機関や投資家からの資金調達がしやすくなるメリットがあります。2022年の世界におけるESG投資の運用金額は30.3兆米ドルで、全運用資産のうちの約35%を占めています。グリーンウォッシュなどへの取り締まりや地政学リスクの影響などで市場拡大が鈍化している面もありますが、持続的社会の実現のためにカーボンニュートラルに向けた取り組みを続ける必要があり、ESG投資の重要性は変わらないと考えられます。
グリーントランスフォーメーションを取り入れながらESGに力を注ぐ企業も増加するでしょう。
「GXリーグ」とは
GXリーグとは、日本国内においてグリーントランスフォーメーションに積極的に取り組む企業と、官・学・金のグリーントランスフォーメーション担当者が連携して、経済社会システムに変革をもたらすための議論や市場を作る実践の場です。
2021年2月から経済産業省の研究会で議論が開始され、2022年度にGXリーグ実装に向けた詳細設計の議論や取り組みの実証を行い、GXリーグの世界観、GXリーグに加入する企業の選出、取り組みの具体的な内容やスケジュールなどの指針が示されました。
GXリーグの基本構想を公表した後は、速やかにGXリーグ設立準備事務局が設置され、GXリーグの方向性に賛同する基本構想賛同企業の募集が行われ、2023年2月に「GX基本方針」及び「GX推進法案」を閣議決定後、GXリーグは本格的な活動を開始しました。2024年4月時点で、日本のCO2排出量の5割超を占める企業群が参画しています。GXリーグが目指すのは、循環構造です。それぞれの企業がカーボンニュートラルに向けて対策を取るだけではなく、グリーントランスフォーメーションによって生まれた価値を提供できる市場を作ることが目標です。また、その市場が拡大することで、一般の人々の生活に対する意識や行動に変革をもたらし、また企業の意識や行動の変容に繋がるような循環構造の実現を目指しています。
循環構造の実現には、まず企業が自ら温室効果ガスの排出量を削減することが重要です。次に自社に関係するバリューチェーンへの排出や削減努力、さらに一般の生活者が自ら能動的な選択ができるようなGX市場を拡大することが求められます。GXリーグはこの循環構造に賛同する企業を募り、一般の人々にとってのカーボンニュートラル時代のイメージや、未来像を踏まえた新しいGX市場を作るときの枠組み、カーボンニュートラルの達成に向けてそれぞれの企業で効率的な排出削減を行うための自主的なCO2排出量取引の試行などを議論します。
GXリーグ参画に求められる考え方
GXリーグ参画に求められる考え方には次のようなものがあります。
【企業自らの排出量削減の取り組み】
<必須事項>
- 2050CN(2050年カーボンニュートラル)に賛同したうえで整合的な2030年の排出量削減目標を掲げ、目標達成に向けたトランジション戦略を描くこと。
- 目標に対する進捗度合いを毎年公表し、実現への努力を行うこと。
<任意事項>
- 日本がNDC(国が決定する貢献)で表明した2030年46%削減の目標を上回る排出量削減目標に引き上げる。
【サプライチェーンの炭素中立に向けた取り組み】
<必須事項>
- サプライチェーン上流の事業者に対して、2050CNに向けた排出量削減のための取り組みの支援を行うこと。
- サプライチェーン下流の生活者に対しても、自社製品やサービスへのCFP(カーボンフットプリント)表示等を通じて、能動的に付加価値の提供やナーチャリングを行う。
<任意事項>
- サプライチェーンの排出量も、国の2050CNに適した2030年の削減目標を掲げ、目標達成に向けたトランジション戦略を描くこと。
【製品・サービスを通じた市場での取り組み】
<必須事項>
- 生活者、教育機関、NGO等の市民社会とコミュニケーションを取り、気候変動への取り組みに対する意見などを聴取し自らの経営に生かすこと。
- 革新的なイノベーションの創出に取り組み、イノベーションに関わるプレイヤーと共に新たな製品やサービスを通した排出量削減貢献を行うこと。またクレジット等のカーボン・オフセット製品の市場投入を行い、グリーン市場の拡大を図ること。
<任意事項>
- グリーン製品の調達・購入により、需要を創出し、消費市場のグリーン化を図ること。
GX経済移行債の役割
GX経済移行債は、2050年のカーボンニュートラル実現を目指し、国が支出を確保するために発行する新しい形の国債です。この国債は、脱炭素化への投資を加速するために設けられており、期間中には官民合わせて150兆円超の投資を目指しています。2024年までの予算として、具体的には、
「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」
「蓄電池の製造サプライチェーン強靱化支援事業」
「断熱窓への改修促進等による住宅の省エネ・省CO2加速化支援事業」
「水素等のサプライチェーン構築のための価格差に着目した支援事業」
etc...
があり、再生可能エネルギーの開発、エネルギー効率の高い技術の導入や炭素吸収能力の強化など、脱炭素化に貢献する様々なプロジェクトに資金が割り当てられています。また、企業の二酸化炭素排出を減らすためのカーボンプライシングの導入も視野に入れています。これらの取り組みを通じて、GX経済移行債は日本の持続可能な経済成長と地球温暖化対策に大きく貢献することを目指しています。
グリーントランスフォーメーション(GX)に取り組むメリット
企業がグリーントランスフォーメーションに取り組むことは、地球温暖化防止やカーボンニュートラル達成のためだけではなく、さまざまなメリットを企業にもたらします。
企業イメージの向上
企業がグリーントランスフォーメーションの取り組みを行うことで、環境に対する配慮があり社会貢献していることをアピールできます。グリーントランスフォーメーションは、企業イメージを向上させ、ブランディングにも役立つでしょう。さらにGXリーグに参画すれば、国からもカーボンニュートラルに積極的に取り組む企業と認められることになります。ESGに配慮していない競合他社とは一線を画せるため、競合優位性も高められます。また、企業の方向性や取り組みに共感した人材の応募が増えることが期待できます。
コスト削減
グリーントランスフォーメーションは、コスト削減にも繋がります。カーボンニュートラルを目指すためには、再生可能なエネルギーへの代替や光熱費・燃料の節約などが欠かせません。自社で再生可能エネルギーを生産すれば、他社から購入するコストを抑えられます。
例えば、太陽光発電設備を設置した場合、太陽エネルギーによって生産される電力を事業所や工場で使えるようになるため、100%の電力を電力会社から購入する必要がなくなります。余った電力は買い取ってもらうこともできるので、コスト削減が期待できます。買い取りは電力だけではなく、風力、水力、地熱、バイオマスなども対象です。
他社から電力を購入する場合も、再生可能エネルギーの方が安い価格設定になっているため地球温暖化対策だけではなくコストを抑えることにも役立ちます。
グリーントランスフォーメーションについてよくある質問
GXとは何の略?
GXは、グリーントランスフォーメーション(Green Transformation)の略称です。GTではなくGXとするのは、Xが英語でTransを略するときに使われるためです。トランスフォーメーションとは、変化や変革を意味します。グリーントランスフォーメーションは、地球温暖化や脱炭素化などの問題を、先進的な方法を使って経済活動を続けながらも解決に導き、持続可能な社会へと変革を遂げための革新的な取り組みです。
グリーントランスフォーメーションはいつから?
日本は、2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにすると2020年10月に宣言しています。また政府は2021年4月に国の方針として、2030年度までに2013年度からの温室効果ガスの46%削減を目指し、さらに削減率50%の高みを目指すことを発表しました。
この政府の方針によって、日本の多くの企業がより一層カーボンニュートラルのためにグリーントランスフォーメーションの取り組みを積極的に行うようになったといえるでしょう。
グリーントランスフォーメーションの目的は?
グリーントランスフォーメーションの目的は、近年の急激な気候変動に対処することです。以前から地球温暖化による危機は伝えられていましたが、気温上昇のスピードは年々早まり、かつて経験したことのないような自然災害が世界各地で起こっています。このまま温暖化が進むと2100年までに3.3~5.7度気温が上昇する試算となっており、日本だけではなく世界の多くの国が2050年までにカーボンニュートラルを実現するためにさまざまな取り組みを始めています。脱炭素社会への変革を図り、持続可能な経済活動を行うためにグリーントランスフォーメーションは欠かせません。
グリーンウォッシュとは?
グリーンウォッシュとは、企業が環境に優しい取り組みを行っているように見せかけることを指します。これは、実際には環境改善に大きな効果がない、あるいは逆効果である場合に問題となります。グリーントランスフォーメーションを進める上で、企業は透明性と誠実さを持って環境対策を実行することが求められます。グリーンウォッシュは消費者や投資家の信頼を失うリスクがあるため、企業は確実なデータや具体的な成果を示す必要があります。また、政府や監査機関による厳格な評価と監視が必要です。
まとめ
グリーントランスフォーメーションは、カーボンニュートラルを実現して地球環境を保護し、持続可能な社会作りを目指すための社会変革への取り組みです。日本では、グリーントランスフォーメーションに積極的に取り組む企業と官・学・金が連携したGXリーグの動きもあります。グリーントランスフォーメーションは、環境問題だけではなく、企業にもさまざまなメリットをもたらします。2050年のカーボンニュートラル達成に向け、積極的な活動を行っていきましょう。
参考:JCCCA「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書第1作業部会報告書(自然科学的根拠)と 従来のIPCC報告書の政策決定者向け要約(SPM)における主な評価」
参考:Global Sustainable Investment Alliance「GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW 2022」
経済産業省資源エネルギー庁「GX リーグ基本構想」」、「脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?」、「なっとく!再生可能エネルギー」
参考:経済産業省「GX経済移行債を活用した投資促進策について」
参考:内閣官房 / 金融庁 / 財務省 / 経済産業省 / 環境省「クライメート・トランジション・ボンド・フレームワーク」
参考:経済産業省「なっとく!再生可能エネルギー」
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