店鋪の味をそのまま家庭でも楽しめる「吉野家の牛丼」を自社ECサイトで販売する吉野家。新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う外出自粛の中、店舗の売上が伸び悩む一方で、ECの売上は急増している。同時に多発し始めたクレジットカード不正利用の対策として「不正防止サービス(Sift)」を導入。わずか2ヶ月の導入期間で、チャージバックの発生頻度を10分の1以下にまで減少させ、売上増加を維持しながらセキュリティの強化に成功した。
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株式会社 吉野家
■所在地:東京都中央区日本橋箱崎町36番2号 Daiwaリバーゲート18階
■URL:https://www.yoshinoya.com
■事業内容:牛丼を主力商品とする、外食チェーンストア
■インタビュイー
外販事業本部 事業企画室長
諏訪和博氏
外販事業本部 ダイレクトセールス部長
木村陽子氏
巣ごもり消費で冷凍牛丼の需要が急増
和食ファストフードの代表格である吉野家の牛丼を家庭でも手軽に楽しめる吉野家の冷凍牛丼。店頭の商品と同じ食材と製法で、保存料を使わず急速冷凍した商品は、子供にも安心して食べてもらえると評判だ。もともとは生協限定で販売していた商材だったが、2013年に自社が運営するECサイト「吉野家公式通販ショップ」(以下公式ショップ)での販売を開始した。主力の牛丼以外にも、豚丼や焼鶏などの人気メニュー、紅生姜などの薬味、常温保存が可能で非常食にもなる缶詰などさまざまな商材を扱っている。
公式ショップと大手ECモールなどに出店する5店を合わせたEC事業全体の2020年度の売上は15億円を超え、実店舗が新型コロナウイルスの影響を受ける中、自宅での食事需要の増加により、対前年比130%以上の大幅な成長を遂げている。「2020年2月後半からECサイトの売上が急増し、一時期は牛丼が欠品してお客様にご迷惑をかけるほどでした。工場にも設備投資して、今は潤沢に商品を供給できる体制となっています」(木村氏)ECサイトの顧客は店鋪の利用者と同様、男性が中心だったが、巣ごもり消費の増加に伴い女性客も徐々に増えているという。
3ヶ月で160万円のチャージバックが発生
EC事業の売上急増と同時に吉野家を悩ませ始めたのが、公式ショップでの不正注文だった。2020年2月下旬頃から、高額のクレジットカード注文を中心に不正利用され、多額のチャージバック(不正利用に伴うカード会社への払戻し)が発生した。
当初吉野家では、公式ショップで利用しているカートシステムの「いたずら判定機能」を利用して対策を行っていた。過去に発生したチャージバック取引の電話番号、住所、メールアドレス、氏名などをブラックリストに登録し、高額な注文に対しては発送前に手動でチェックし、不正と判断したら発送を停止する方法だ。そのために、一定金額以上の高額取引全てに対して、時には部門長である木村氏自らが、1件あたり30分から1時間かけて電話確認や発送停止の対応を行うこともあった。この方法で5月上旬頃には、いったん被害を抑え込むことができたが、結果として、2020年2月からの3ヶ月間で約40件、累計で160万円以上の損害が発生した。「怪しい注文が入るとその都度電話調査や発送停止などすべて人力での対応が必要で、しかも対策しても延々と、いたちごっこが続く。被害金額もさることながら、対応にあたっていた私自身が疲労困憊していました」(木村氏)
「顧客体験を阻害しない」ことを最優先に不正防止サービス(Sift)を選択
吉野家が利用している決済システムを提供する決済代行事業者のGMOペイメントゲートウェイ(以下GMO-PG)に、クレジットカードの不正利用対策を相談したところ、3Dセキュアの導入、不正検知システムの導入など、いくつかの方法を提案された。
対策の検討にあたっては、まず、利用者の購入経験を阻害しないということを最優先に考え、3Dセキュアなどの導入は見送った。「公式ショップのお客様はECでのお買い物に慣れていない方も多いです。注文の際に入力項目が増えたり、決済の途中で違うサイトの画面が表示されたりするとお客様の離脱が発生することが懸念されました」(木村氏)
不正検知システムは、不正防止サービス(Sift)ともう1つ別のサービスの提案があった。不正防止サービス(Sift)を選んだ理由はコストの優位性という。「機能がそれほど変わらないように思えたのに、もう一つのサービスは初期費用、固定費、トランザクションフィーのすべてが不正防止サービス(Sift)よりも割高でした。不正防止サービス(Sift)導入にあたっての懸念は、管理画面が全て英語だったことですが、直感的にわかりやすい設計でもあったので、この機会に英語の勉強もしようと割り切って、選択しました」(諏訪氏)
新型コロナウイルスの影響で外食を控える傾向が当面は続くのであれば、不正注文もますます増えるに違いないと考えた吉野家では、導入をすぐに決断。システム開発を担当するカートサービス提供会社の体制が整った2020年8月から開発をスタートして、10月下旬には本番環境での稼働を開始した。同じカートシステムを利用する複数のショップが既に不正防止サービス(Sift)を導入しており、カートサービス提供会社側にノウハウがあったこともあり、通常よりもスピーディーな導入が可能となった。
2020年10月初めに実施したステージング環境でのテストでは、顧客の購入体験は従来と全く変わらないことが確認できた。「お客様が注文する際に不便やストレスを感じるのではないかという懸念は全くなく、安心して導入できました」(木村氏)
手口の変化に機械学習で対応する強みを実感
現在は、不正防止サービス(Sift)の算出するスコアが40点以上の取引を「保留」として翌朝まとめてレビューし、不正と判断した取引については出荷を停止している。万が一にも本来の顧客の注文を停めてしまうことは避けたいので、自動で出荷停止にはせず、必ず人が確認する運用を続けている。「警告が出た取引でも、過去に購入履歴があるお客様など正しい取引であると判断できるものは、警告を解除するようにしています」(木村氏)不正防止サービス(Sift)導入以前は、正当な顧客に迷惑をかけることを恐れて取引内容の確認が甘くなり、不正を見逃してしまうこともあった。導入後はスコアという客観的な指標により見逃しを大幅に減らすことができている。1日にレビューにかかる時間は30分程度となり、疑わしい注文1件ごとに確認に30分から1時間かけていたのに比べ大幅に対応時間が削減された。
不正防止サービス(Sift)導入前、最も被害が大きかった2020年3月は、1カ月で11件のチャージバックが発生したが、導入から3ヶ月が経過する頃には1カ月に1件程度まで減った。「不正防止サービス(Sift)の警告にもとづき出荷停止する取引は、現在でも1カ月に20~30件程度はあります。このサービスがあるからチャージバックを未然に防げているので、もし無かったらどうなっていたことか。想像するだけで恐ろしい」と木村氏は語る。
不正防止サービス(Sift)導入後、不正注文の傾向も徐々に変わってきたという。高額注文は出荷停止されることに気づいた犯人が、1回あたりの取引金額を減らし、代わりに頻繁に注文を行うようになったのだ。「一度だけ、これまでよりも少額の不正注文を見逃してしまったことがありましたが、その注文が不正であることを不正防止サービス(Sift)に学習させたら、次からは少額の不正注文にも警告を出せるようになりました」(木村氏)。予め定義したルールベースではなく機械学習により、手口の変化に対応する不正防止サービス(Sift)の強みを実感している。懸念していた英語の問題も技術商社であるマクニカネットワークスによる日本語ドキュメントやエンジニアの手厚いサポートにより、問題なく運用ができているという。
重要性増す公式ショップの守りの要に
「新型コロナウイルス感染拡大防止のため、外出自粛や飲食店の営業時間短縮により、店舗に行きたくても行けないお客様が増えています。今までインターネットで買い物をしたことがない人からお客様センターに公式ショップの操作方法の問い合わせが入ることも多く、通常は来店されるお客様にもたくさんご利用いただいていると実感しています」(諏訪氏)
ECサイトは、男性客が多い実店舗に一人で入りづらかった女性やファミリー層など、これまで吉野家がタッチできなかった顧客層の開拓にも重要な役割を果たしている。大手ECモールショップで冷凍牛丼の認知を高めながら、公式ショップにしかない商品やお得な定期便を提供することで、「いつでも食べたい時に吉野家の牛丼が家にある」という体験を多くの人に提供したいと考えている。
「牛丼を国民食にしたい」という吉野家の目標達成のため、今後も公式ショップでの販売には注力していく意向だ。不正防止サービス(Sift)の導入によりカードの不正利用被害は大幅に減っているが、未然に防がれている不正注文の警告の件数は増え続けているという。「本当は、不正注文する人は、そもそもサイトにアクセスさせないことができればいいと思っていますが、会員登録なしでも買える手軽さをなくしたくない。これからもGMO-PGとマクニカネットワークスには不正利用被害を減らすための相談に乗って欲しい」と木村氏は期待する。
(by あなたのとなりに、決済を編集チーム)
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