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米国駐在、この2年で見えてきたFinTechの舞台裏〜金融APIプラットフォーマーの隆盛〜

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プラッド(Plaid)、マルケタ(Marqeta)など、「金融APIプラットフォーム」を抜きにしては語れなくなった米国の金融インフラ。サンフランシスコに居を構えて2年。FinTech担当の米国駐駐在員が語る米国FinTechの過去・現在・未来。

米国カード社会は2008年のリーマンショックで一変

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―FinTech勃興前後の米国の金融インフラ

さまざまな意見があると思いますが、「現金・小切手からカードへの決済手段の変化」「リーマンショックによる与信審査の厳格化」という二つのポイントに着目して、FinTech企業が勃興した背景についてお話ししたいと思います。
まず、前者について申し上げますと、1990年代までの米国では、現金・小切手による決済が全取引の半分以上を占めており、クレジットカードやデビットカードによる決済は少数派でした。「アメリカ=昔からカード社会」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、統計上、1990年代はまだそうではなかったのです。
こうした傾向に変化が訪れたのは2000年代に入って以降です。オンラインショッピングの隆盛もあり、銀行がカードの発行、加盟店の開拓を促進。クレジットカード、デビットカードの利用率は徐々に増えて、現金・小切手による決済を逆転し、全取引の半分以上を占めるようになりました。

こうした状況に大きな変化をもたらしたのが、2008年の「リーマンショック」です。米国はクレジットスコア社会と呼ばれており、過去の返済履歴や債務残高などによって算出される「FICOスコア」をはじめとする信用スコアによって融資やクレジットカードの発行に関する判断が行われています。
リーマンショック以降は、この信用スコアの比較的高い人にはクレジットカードを発行し、魅力的なサービスを提供する一方で、与信審査を厳格化。信用スコアの低い人々へのクレジットカード発行、与信枠の拡大が難しくなりました。こうして生まれた"空白地帯"を新たなテクノロジーを駆使することによってカバーし、金融サービスにアクセスできなくなった人を包摂する役割を担ったのがFinTech企業だったのです。
2013年頃になると、オンライン決済や、独自の与信審査基準に基づく無担保・オンライン融資やP2P融資、個人資産管理といった新しいサービスを手掛けるFinTech企業が続々と生まれました。

―FinTech企業は銀行が担っていた機能を代替するようになったのか

"代替"というよりは"共存"といったほうが適切です。2013年以降もFinTech企業の隆盛は続き、最近では、金利ゼロ・チップ制の給与先払いサービスを展開する「アーニン(Earnin)」や、個人事業主や小規模企業に対して、インボイス(請求書)の金額と同等の金額を融資するサービスを展開する「ファンドボックス(FUNDBOX)」など、きわめて先鋭的なサービスも登場しています。ただし、それでもなお銀行の機能を"代替"しているとは言い切れないのは、口座の開設や預金の保護など、金融サービスを享受するための基礎となる機能を担うことができるのは銀行だけだからです。
FinTech企業の多くは、ベンチャーキャピタルや資産運用会社などから資金を調達して、かつてないサービスを創り上げていくわけですが、それでも銀行並みの体制を整えてライセンスを取得し、フルラインの金融サービスを提供するのは容易なことではありません。むしろ銀行とFinTech企業が互いの強みを活かしながら"共存"しているというのが、面白いところだと思います。

―FinTechの隆盛を支えたテクノロジー

FinTechの隆盛を支えたテクノロジーとしては、スマートフォンの普及やビッグデータ、AIの発展など、さまざまな要因が関わっていますが、最も大きなインパクトを与えたのは、「金融API」と言っていいでしょう。「API」というのは「Application Programming Interface」の略語。一言でいえば、あるサービスから、別のサービスの機能を呼び出す仕組みのことで、「金融API」は、例えばFinTech企業が開発したスマートフォンアプリから、各銀行のシステムの機能を容易に取り込むことができるようにするためのツールを意味します。
この「金融API」を通して、銀行とFinTech企業をさまざまなかたちで結び付ける「金融APIプラットフォーム」の発達が、この10年間の米国の金融インフラの発展を後押ししてきたのです。そして、その立役者となったのがユニコーン企業「プラッド(Plaid)」でした。

FinTech企業勃興の裏方、金融APIプラットフォームの存在

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―プラッド(Plaid)は、どのようなビジネスを展開しているのか

プラッド(Plaid)は欧米の1万行以上の金融機関に登録された数千万件の銀行口座と、FinTech企業が開発したスマートフォンアプリ等のプロダクトをつなぐ、金融APIプラットフォームです。プラッド(Plaid)は、アメリカでは既に社会インフラのような存在になっており、主要なFinTechアプリをダウンロードしてサインアップする際には「プラッド(Plaid)であなたの銀行口座とつないでください」というリクエストが必ずといっていいほど表示されます。
また、私が渡米した当初、プラッド(Plaid)とつながっていない銀行口座を自分の給与振込先に指定していたのですが、そのせいでFinTechアプリをほとんど使うことができませんでした。日本にいたときから名前は知っていましたが、プラッド(Plaid)の米国での存在感たるやものすごいものがあります。米国のFinTech企業は、プラッド(Plaid)という「金融APIプラットフォーム」なくしては、もはや成り立たないといっても過言ではありません。

―個々の革新的なサービスについつい目が行きがちだが、その裏方、基盤に注目することが大切

ちなみに、米国ではプラッド(Plaid)のほかにも、クレジットカードやデビットカード、プリペイドカード等をスピーディに発行できるAPIを開発し、「金融カード発行プラットフォーム」を運営している「マルケタ(Marqeta)」も存在感を発揮しています。ゴールドラッシュで一番儲けたのは金鉱掘りではなく、「pick and shovel(つるはしとショベル)を売っていた人だ」という話がありますが、これと同様に、エンドユーザーとの接点をもつ"フロント型企業"より、プラッド(Plaid)やマルケタ(Marqeta)のような"イネーブラ型企業"の方が莫大な利益を上げている可能性もあるということです。

米国のFinTechには今後3つの流れが来る

―米国FinTechの今後の展望

今後のトレンドとして、3つの流れを指摘したいと思います。

第1は「信用スコアに依存しない社会への対応」です。
信用スコアはクレジットカードの返済履歴等によって算出するのが一般的ですが、米国ではリーマンショック以降、「クレジットカードはなるべく使いたくない」「クレジットカード以外の手段で決済したい」と望む若者が増えています。こうした傾向が今後も続けば、従来通りの信用スコアの仕組みが成り立たなくなる可能性も考えられます。住宅ローンや自動車ローンといった高額の金融商品に関しては、今後も当面は信用スコアに基づいた与信審査が行われていくと思いますが、既存の信用スコアでは測れない信用度を数値化する代替的な手法を開発するFinTech企業が台頭するのは間違いないでしょう。

第2は、FinTech企業の「銀行化」です。
例えば「バーロ・バンク(Varo Bank)」を展開する「バーロ・マネー(Varo Money)」は2020年に銀行業ライセンスを取得。銀行業ライセンスを取得したFinTech企業は、"チャレンジャーバンク"と呼ばれますが、今後は、富裕層向けのプライベートバンキングや住宅ローンなど、これまでは銀行が提供してきた金融サービスを含め、フルサービスを提供するチャレンジャーバンクが増えてくると思います。但し、最近になってGoogleが予定していたデジタルバンキング機能の提供の中止を発表するなど、伝統的な銀行との関係性などを考慮して、各社慎重に進めて行く領域になります。

第3のトレンドは、「ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGsへの対応」です。
欧米では、就職や転職の際の会社選びの基準として、ESGやSDGsへの貢献度を重視する若者が増えています。環境の側面では、スウェーデンを本拠地として金利ゼロの後払い決済(BNPL:Buy Now Pay Later)サービスを展開しているFinTech企業「クラーナ(Klarna)」は、脱炭素スタートアップの「ドコノミー(Doconomy)」と連携。クラーナが展開するアプリで購入した商品に関して、その製造から配達に至るまでの過程で排出される二酸化炭素を"見える化"する機能を導入しています。
こうした機能を搭載したアプリに対するニーズは、今後ますます高くなっていくでしょう。社会の側面では、アメリカはジェンダー格差やマイノリティ差別に対して非常に敏感です。クレジットカードや融資の審査などにも、そういったバイアスがかかっているとされ、そのようなバイアスを是正する与信アルゴリズムを金融機関へ提供する「フェアプレイ(Fairplay)」のようなFintech企業が登場しています。

―米国のFinTech企業に日本が学ぶべき点

国と国を比較してどちらが良い、悪いといった話は出来ないので、あくまで私が感じた違いという主旨になります。よく耳にする話かもしれませんが、米国に比べると日本は「新しいものや変化に対して懐疑的」「ゼロリスク志向が高い」といった印象を持っています。必ずしも金融に限らず、例えばアメリカのヘルスケア企業でグローバルのコンプライアンス・規制対応の仕事をしている知人によると、日本市場が求める要件は非常に高く、難しい市場の一つだそうです。これは必ずしも悪いことではありませんし、場合によっては強みになることもあると思います。

一方で、変化のスピードが上がりにくいのは否めないのではないでしょうか。年功序列、男性優位、時価総額上位の企業が入れ替わらない、といった社会・企業の各レベルでの新陳代謝が、アメリカと比較すると起きにくいことも背景にありそうです。

Fintechに限らずアメリカのスタートアップをベンチマークすることは、引き続き日本企業が世界に貢献していく上で重要だと思います。アメリカは本当に世界中から優秀な人材が集まりますし、移民など様々なバックグラウンドを持った人が切磋琢磨する国です。それだけに、アメリカ国内だけでなく、国外にも目を向けた課題解決に取り組むスタートアップが数多く生まれます。
そういったスタートアップの動きにアンテナを張り巡らせることは、世界にどのような課題があり、どういったことに関心が寄せられているのかを理解する良い助けになると思っています。

【筆者】

GMOペイメントゲートウェイ グローバルMSB推進・企画部所属。
大手メーカー、経営コンサルティングを経て2016年よりGMOペイメントゲートウェイに入社。2020年よりサンフランシスコ駐在。米国にてFintech市場調査、及び有望なFintech企業への融資事業を推進。

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(by あなたのとなりに、決済を編集チーム)

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