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“名刺”をフックに新たな顧客価値を創造
創業時から一貫したミッションで実現していく

名刺にまつわるユニークなテレビCMでおなじみのSansan株式会社。2007年の創業以来、「ビジネスの出会いを資産に変え、働き方を革新する」というミッションの下、法人向けクラウド名刺管理サービス『Sansan』、個人向け名刺アプリ『Eight』という、イノベーティブなサービスを提供されています。「出会いの情報をデータ管理・共有して付加価値に変える」という、それまでなかった概念を創出し、働き方すら変えようとしています。Sansan株式会社の創業メンバーの一人である、取締役Sansan事業部長の富岡 圭氏に、同社の“過去と現在、未来”について話を伺いました。

――名刺をスキャンしてデータ化し、データベースとして一元管理する管理ツールが複数ある中、『Sansan』が最もイノベーティブなのは、名刺のデータベースの概念を変えたことにあると感じます。

富岡:われわれは「ビジネスの出会いを資産に変え、働き方を革新する」というミッションを創業当時から掲げていて、それを実現するための会社として各種サービスを提供してきました。『Sansan』を始めた当時は、名刺管理といえば家電量販店にある個人向けのソフトウエアくらいで、企業が名刺管理をすることはありませんでした。それは、名刺のデータベースの価値を、「名簿」程度にしか認識できていなかったのだと思います。『Sansan』の導入企業様が増えるにつれ、「人脈のデータベース」という価値観が定着し、今では、三井住友銀行様や株式会社KADOKAWA様、経済産業省様など約6,000社にご利用いただいています。また、2012年にローンチした個人向け名刺管理・ビジネスSNSの『Eight』は200万ユーザーを突破しました。とはいえ、「世界観をつくり上げる」という意味では道半ばです。

――イノベーティブであり続けるために大切にしていることはありますか。

富岡:ミッションに向き合うことはもちろん大切ですが、同時に、『Sansan』の「名刺を企業の資産に変える」、『Eight』の「Your Business Network」という顧客価値の実現にとことんこだわることに尽きると思います。当社には約300名の社員がいますが、名刺を切り口に全員が同じ方向に向かっている会社は世界に類を見ないと断言できます(笑)。
「世界を変える新たな価値を送り出そう」という気概を全社員忘れないことが革新的なサービスにつながるのだと考えています。

また、顧客の声は、社内のSNSで常に情報共有をするなど、大切にする一方、「われわれが良いと考えるものを突き詰める」という姿勢は崩さないよう心掛けています。世に革新をもたらしたiPhoneが顧客の声に従うだけでは今のような形にならなかったように、自分たちの成し遂げたいミッションの追求も大切にしています。

――今までなかったものを生み出し、受け入れられるには苦労もあったと思います。

富岡:Sansanは5人の創業メンバーで立ち上げた会社です。もともと、社長の寺田(親弘氏)と私は高校時代からの友人で、卒業後、寺田は三井物産、私は日本オラクルに勤めていました。

寺田から最初に話があったのは2005年ころです。上海に赴任していた私のところに彼が遊びにやってきて「起業しよう」と誘われました。アイデアを尋ねたところ、「名刺を活用して人のつながりを創出したい」という内容でした。私は米国系の会社でソフトウエアの販売に携わっていましたが、海外に出て分かったことは、この分野は欧米のプロダクトやサービスばかりで、日本を含むアジア諸国のものはほぼないということでした。そのため、グローバルスタンダードを生み出したいという思いがありました。また、自分もそうしたサービスが「欲しい!」と思いましたし、名刺を出会いに変えるビジネスモデルにチャンスがあると確信しました。

寺田と私はビジネス寄りの人間でしたので、エンジニアとして現在は取締役でEight事業部長の塩見(賢治氏)、やはり取締役で現CISO(Chief Information Security Officer)兼DSOC(Data Strategy&Operation Center)センター長の常樂(諭氏)、名刺を扱うため入力のノウハウやセンター運営の担当として、現CWO(Chief Workstyle Officer)の角川(素久氏)に声を掛け、2007年6月に会社を立ち上げるに至りました。

いざ設立はしたものの、当時は世にないビジネスで認知度もゼロ…。テレアポをしても話が通じないなんてことはザラでした。それでも、会社員時代の人脈を頼りに『Sansan』ローンチ前から予約を取り付けることができ、提供が始まった10月には数社に採用していただきました。

当初は名刺交換が多い経営者や役員、営業部門で使われ始めました。データ化することで「管理がラク」「探す手間が省けるようになった」という反響が届く一方で、「全社で導入するには実績がない」「会社は大丈夫?」といった声もありました。われわれも、ミッションや熱意を伝えることはできても、その先にあるメリットをアピールできない歯がゆさもありました。
ところが、徐々に顧客情報をデータ管理するだけではなく、営業ツールとしても活用して業績アップを実現したというケースが出始めたことで、サービスの価値を理解していただけるようになっていきました。また、マスマーケティングとしてはテレビCMで認知度アップを図り、企業全体で使っていただけるようなライセンスの形態に切り替えたことで、さらに受け入れられるようになりました。お陰さまで、今では導入企業様も6,000社を突破し、5年連続でシェアNo.1を実現しております。

導入企業数の推移

――起業から現在も、日々大きな選択の連続だと思いますが、ビジネスの結果に大きく左右するような意思決定はどのように行っていますか。

富岡:基本的には、ミッションに忠実に意思決定するように心掛けています。決断に迫られたとき、日頃行動の軸に置いているミッションからはずれた判断をしてしまうと、ビジネスの軸自体がブレてしまいますから、とても危険な行為だと考えています。常にミッションに忠実に判断し、行動していれば、どんな大きな選択でも、ブレのない意思決定をすることができると考えています。

――現状の課題はありますか。また、それに対してどのように立ち向かおうと考えていますか。

富岡:名刺が出会いの情報になり、やがて企業やビジネスパーソンの「インフラ」にしていくことが次なるチャレンジです。エンタープライズをはじめとした大手企業のプラットフォームに選ばれるよう、プロモーションや開発などの手綱を緩めないよう進んでいきたいと思います。都心部での認知度は上がってきましたが、地方ではこれから。『Sansan』は2019年中に1万社の採用を目指しています。

海外へのチャレンジも始めています。アジアは名刺文化が色濃く、『Sansan』はグローバル企業がヘッドクオーターを置くシンガポール、『Eight』は人口が多く人のつながりを重視し、ITリテラシーの高いインドで展開しています。

当社にはR&D部門のDSOC(Data Strategy & Operation Center)がありますから、データ入力の効率化だけではなく、AIを活用して「次はこの人に会えばいい」というようなビジネスの出会いをレコメンドする新機能も開発するなど、今後もさまざまなことにチャレンジしたいと考えています。データ化した資産は活用しないと意味がありませんから。

――未来の話になりますが、2030年に御社のビジネスはどのように進化していると思いますか。

富岡:『Sansan』や『Eight』はインフラ化していて、今までは会うことが難しかった相手と接点を持てるようになるなど、ビジネスパーソンがイノベーションを起こすための出会いを後押しするツールになっている、そんなイメージを持っています。デジタル化が進み、紙の名刺はなくなっているかもしれません。「昔はそんなものがあったね」となっていれば面白いですね(笑)。従来の名刺はないけど、ビジネスの出会いの情報はしっかりとある……そんな社会になっているとうれしいです。

――最後に、読者でもある時代を担う起業家にメッセージをお願いします。

富岡:われわれもまだ世の中を変えるチャレンジの最中ですが、「ミッション」と「パッション」を持ち続けることが大切だと思います。起業家の皆さんと、共に世界を変えていける存在を目指していければ心強いですね。

富岡 圭

プロフィール:
富岡 圭 氏
Sansan株式会社 取締役
Sansan事業部長

幼少期を香港で過ごす。1999年慶応義塾大学環境情報学部卒業後、米オラクル日本法人に入社。
2007年に4人の仲間と共にSansan株式会社を創業。世界初の法人向けクラウド名刺管理サービス『Sansan』、2012年より個人向け名刺アプリ『Eight』を提供開始。
創業時より事業部長として『Sansan』事業に携わり、現在はグローバル展開も統括。
“ビジネスの出会いを資産に変え、働き方を革新する”というMissionのもと、世界を変える価値創造を目指して奔走中。

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協力:JBpress