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世界最大の自動車市場である中国が、そして第2位の米国が急速に電気自動車(EV)へと舵を切ろうとしている。それを睨んで世界中の自動車メーカーは躍起になってEV開発に乗り出している。各社がこぞってEVをアピールし、図らずも「EVモーターショー」のような状態となった2017年秋のフランクフルトモーターショー。マスコミはこれを「EVシフト」と表現した。今の勢いのままEVが普及すれば、内燃機関で動き続けてきた自動車に、100年規模のパラダイムシフトが起こることになる。その時、こんなビジネスモデルが生まれるかもしれない。
渡辺さん一家は比較的自動車でのお出かけが多い。子どもが小さく、夜間に体調が悪くなって病院に行かなくてはいけないなど、不測の事態もあり得るため、自動車は今のところ必要だ。
ただ、今所有しているのはハイブリッドカーのため、ガソリン車に比べて燃料代こそ抑えられるものの、駐車場代、税金、保険代、車検代、修理やメンテナンスに費用が掛かる。そんな時、EVを使った新しいビジネスで注目を集める日本のベンチャー「Slow life(スローライフ)」の存在が、渡辺さんの自動車に対する考え方を変えることになった。
エネルギー業界や自動車部品メーカーなどから独立した4人が立ち上げた「Slow life」は、その4人によるアイディアソンから生まれた「EVから電気を取り出す」という着想をビジネスモデル化し、「EVのみのカーシェアリング」「エネルギーもシェア」「エネルギーフリー」というビジネスにたどり着いた。当初は理解が得られず難航したが、それが日本の大手自動車メーカーの目に留まることになり、協業することが決定したことで状況が一変。日本発のディスラプターを支える機運が盛り上がり、バッテリーは従来のリチウムイオン電池よりも大容量で長寿命な最新の全個体電池が、モーターも高出力で回生機能の優れたものが調達できたことに加え、資金もその自動車メーカーのほか、電力会社、不動産会社、バッテリーメーカー、銀行などから順調に集まることになった。
「Slow life」では自動車を置いておく最初の拠点をマンションとオフィスが近接する都心に開設した。情報収集を兼ねてネットで試乗の予約を入れておいた渡辺さんは、さっそく体験しに出かけた。
サービスを体験する時間になり、車両の脇に立つと、それだけでロックが解除され車内に入ることができた。そしてシートベルトをした後「スタート」と言うと、音声認識システムにより車が起動し、発進できる状態となった。サービスの申し込みをしていない者が同じことをしても認証・解錠・起動はできない。アプリに事前登録した生体情報を元に、サイドウインドウに内蔵された全方位カメラやマイクが本人認証を行っているのだ。
車両が駐車してある拠点の地中には、敷地内に設置された太陽光パネルを活用した非接触式の充電器が埋設してあり、車両は常に充電されている。今後はこの仕組みを公道にも採用することにより、EVにおけるエネルギーフリーが実現するだろう。
さて、試乗では施設内をゆっくりと回るコースのため、加速など本格的な動力性能は体験できなかったが、さらにこのあとオフィスで聞いた事業モデルにも渡辺さんは強く引き付けられ、彼らこそ自動車をパラダイムシフトする存在であると実感することとなった。
興味深い点は2つあった。
1点目は、従来のカーシェアリングでは車両は稼働しなければただ駐車しているに過ぎないが、「Slow life」の場合、非稼働時に車両は売電と買電を繰り返す電力ストレージに早変わりするという点だ。今後全国に展開する拠点の車両一台一台の状態をクラウドで管理、売電市場で値が下がったらビッド(買い)を入れ、高くなったらオファー(売り)を入れ電力を自動売買する。その一方、太陽光、風力などの持続可能エネルギー発電設備事業にも力を入れ、その電力をカーシェアリング事業と電気売買事業に割り当てていくという。
もう一つは、サービス提供に関するあらゆる支払がアプリ内で完結する点だ。「Slow life」を利用するユーザーは、入会時に「Slow life アプリ」にクレジットカード情報などを登録しておくことで、利用後、保険料などを含めた料金がアプリを通して決済されるため、都度ごとの煩雑な手続きや決済は必要ない。また、電力売買で得た収益は、「Slow life」が設定した上限を超えると自動的に会員に配当としてポイントが分配される仕組みだ。もちろんこのポイントは1ポイント=1円で換金でき、交通系カードなどと連携すればアプリの入ったスマホで買い物や公共交通機関の利用も可能だ。
これらの自動車との新しい付き合い方、利用中の電気代が無料という分かりやすさ、自動車を使ってエネルギーを売買し会員に還元する考え方などは、まさに自動車のパラダイムシフトを感じさせるものだ。サービスは今後、災害時や停電時の電源供給などで、市や病院などの公的機関や、コンビニエンスストアチェーン、大型マンションを管理している不動産会社など、多岐にわたる企業への提供が進んでいくだろう。
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EV(電気自動車)を取り巻く環境が急激に変化している。アメリカはカリフォルニア州をはじめ10州で、自動車メーカーに対してEVなど環境に配慮した自動車の販売を優遇、逆にガソリン車など従来の自動車の販売には制裁金を課す「ZEV法案」を適用する(2017年末販売の「18年モデル」から)。中国も大気汚染改善のため、メーカーに対してEVなど環境対策車を一定割合生産・輸入することを課す。また、イギリスとフランスは、40年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止すると発表。各メーカーはこぞってEVをはじめとした環境対策車開発に乗り出している
アイディアとマラソンの造語。連続的にアイディアを生み出すイベントで、ベンチャーが生まれる素地となることも多い。類似したものに「ハッカソン」というものがある。アイディアソンが発想を生み出すのに対して、ハッカソンは技術者が集い、ソフトやプロトタイプを実際につくるところが異なる。
「破壊的創造者」と訳されることが多く、既存のビジネス環境に革新的なビジネスモデルを持ち込み、それまでのプレーヤーにゲームチェンジをもたらす異業種の企業やベンチャー企業を指す。最近では、ウーバー・テクノロジーズやAirbnbなどがその代表的存在と言われることが多い。
現在日本ではケーブルの先についたコネクターをEV本体に差し込む方法を採用するが、一方で携帯電話などでは比較的普及している非接触式の充電方式もある。指定の場所に駐車すれば充電が始まる利便性があるが、設備を埋設する費用、自動車側の設備の規格統一などから普及には至っていない。
進化形の生体認証の一つ。人間には指紋よりも複雑でまねされにくい固有の情報があり、手のひらの静脈や顔などを認証に使うプロダクトが普及している。