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押さえておきたいエンベデッドファイナンス。注目を集める新たなFinTechの潮流と仕組み

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FinTech領域の新たなトレンドの1つとして、メディアでも取り上げられることが増えてきた「Embedded Finance(エンベデッドファイナンス)」。日本語では「埋め込み型金融」や「組み込み型金融」とも訳されるこの概念がなぜ注目を集めるのか。GMOペイメントゲートウェイ(以下、GMO-PG)において新規事業領域の事業開発に従事し、日々世界の金融・決済企業の調査分析を行っているメンバーに聞きました。

"身近なサービス"が金融サービスへの入り口となる

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そもそもエンベデッドファイナンスとは何か──。人によって考え方は異なるかもしれませんが、私は「これまで少し遠い存在だった金融サービスへ、身近なサービスを通じてスムーズにアクセスできるようにするもの」という理解をしています。

身近なサービスというのは、普段使っているECサイト、メルカリのようなフリマアプリ、LINEのようなコミュニケーションサービスなどをイメージしてください。

自分が慣れ親しんでいるサービスから、決済や融資、証券、保険、投資など金融機関が扱っていたプロダクトにアクセスできるようになること。国内ではメルカリやLINEなどが金融領域のサービスを拡張していますが、それがエンベデッドファイナンスです。

ポイントは「身近なサービス」であることと「アクセスしやすい」ことにあります。

というのも、金融サービスは他の商材と比べても「ユーザーにとってハードルが高くなりがち」だからです。
例えば、馴染みのない専門用語などを読み解きながら商品の特徴を理解する必要がありますし、申し込みにあたっては膨大な手続きが待っていることも多いです。また、さまざまな書類を用意したり、何回も同じような項目を入力したり。WEBサイトがわかりづらい設計になっていることも珍しくありません。

これが、同じような金融サービスであったとしても「普段から使い慣れた身近なブランドのサービス」に組み込まれ、そのままシームレスにアクセスできるようになるとどうでしょうか。

金融サービス自体が今まで以上に使いやすく、気軽に利用できるものに変わるかもしれません。エンベデッドファイナンスに注目が集まる背景には、そこに対する期待があると考えています。

黒子企業の台頭が「事業会社の金融サービス提供」を後押し

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エンベデッドファイナンス自体は比較的新しい概念で、FinTech界隈で使われるようになったのもここ数年のことです。私自身はロンドンなどに拠点を構えるFinTech系のVC・anthemisが2019年に公開したホワイトペーパーをきっかけに、この領域に注目するようになりました。

ホワイトペーパーではGreen Dotのようなエンベデッドファイナンスを"後押し"する企業等の事例とともに、概要が解説されています。なおGreen Dotはプリペイド・デビットカードの発行や、カードにまつわる決済の仕組みをサービスとして提供しており、Uberの金融事業の裏側を担っていたことなどでも知られる企業です。

近年、同社のように「自分たちが消費者に直接金融サービスを提供するわけではなく、そのようなサービスを提供したいと考えている事業者の黒子として、裏側で必要な仕組みを提供する」プレーヤーが注目を集め始めています。
金融機関のBaaS(Banking as a Service)を支える企業や、イネーブラーと呼ばれる存在の企業です。

たとえばアメリカやヨーロッパでは「銀行口座の開設」や「クレジットカードの発行」のハードルが高く、そこにアクセスできない個人や事業者も存在します。その課題の解決策として、チャレンジャーバンクやネオバンクと呼ばれる新しい金融機関が急速に立ち上がりました。
それと並行して台頭してきたのが、カード発行や決済をサポートする企業です。

上述したGreen Dotや、2021年にナスダックへ上場したMarqeta(マルケタ)はその一例。Marqetaではライセンスを持つ銀行とタッグを組み、クライアント企業が円滑にカードを発行できるプラットフォームを展開することで急成長を遂げました。

これらの黒子として裏側の仕組みを支えるプレーヤーがいることで、さまざまな企業は"カード"を起点とした金融サービスをスピーディーに提供できるようになります。例えば、Uberはドライバー向けの「Uber Debit Card」を通じて、即日で報酬を受け取れる仕組みなど、ドライバーの生活を支える基盤作りにも力を入れています。

※anthemis「Embedded Finance -The Future of the Economy」

「使い勝手の良さ」と「パーソナライズ化」を実現

法人向けという切り口にはなりますが、日本でもBASEやマネーフォワード、freeeといった事業者が続々と独自のカードサービスを展開し始めています。欧米に比べるとクレジットカードや銀行口座を作る難易度が低いため、日本では「カードを一切作れない」「銀行口座を開設できない」といった個人や事業者自体は少ないでしょう。

一方で、その使い勝手やアクセスのしやすさについては改善の余地が残されています。限度額が十分ではなかったり、UIUXが煩雑で使うまでの手続きに時間がかかったり。一連の体験がより滑らかになれば、今までは"気合を入れて申し込んでいた"金融サービスに、もっと気軽にアクセスできるようになるかもしれません。

結局のところ、金融は他のサービスと比べて身近な存在とは言えず、どちらかというと敷居が高いと感じる人の方が多かったのではないでしょうか。それを身近なブランドが入り口を担うことで心理的なハードルを下げてくれますし、すでに登録しているユーザー情報などを活用することで手続きを簡略化することもできます。

また、もう1つの観点として「パーソナライズ化」という切り口も重要です。普段から顧客と接しているブランドは、既存の金融機関が有していないような顧客データを保有していることも多いです。

たとえばクラウド会計サービスの事業者であれば、日々の会計データがサービス上に蓄積されているでしょう。これを融資に活用することで、従来の画一的な基準ではなく、顧客の状況に応じて柔軟に与信枠を設定することもできます。特に近年は「金融サービスのAPI化」や「クラウド化」によって、共通基盤の上にさまざまなデータが統合され、なおかつそれらのデータがAPIを通じて事業者間で連携されるようにもなりました。

こうした技術的な変化もエンベデッドファイナンスの流れを加速させる1つの要素になっていると考えています。

エンベデッドファイナンスは融資や証券、保険などさまざまな領域へ

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国によって違いはあれど、エンベデッドファイナンスの波は銀行口座や決済など、ファイナンスの土台となる領域から少しずつ広がってきました。

今後は証券や保険、投資、融資など従来銀行が扱っていなかった領域においてもエンベデッドファイナンスがどんどん浸透していくのではないかと考えています。生活に不可欠な金融の土台となる部分から始まり、どんどん上の方へと登ってきている感覚です。

もともと欧米では銀行口座を開設するハードルが日本ほど簡単ではなく、そこに一定数の人が課題を感じていました。そのペインを解決するためにエンベデッドファイナンスという言葉が出てくるよりも早く広がっていったのがチャレンジャーバンクやネオバンクと呼ばれる企業たちです。

こうした企業のサービスが浸透していく中で、次に需要が高まったのが「カード発行やカード決済」の領域。2021年6月にナスダックに上場したMarqetaを筆頭に、非金融系の企業が簡単にクレジットカードやプリペイドカードを発行できるような環境を提供するサービスが普及しました。実際に決済サービスを手がけるSquareやフードデリバリープラットフォームのDoorDashなどは、Marqetaと組むことで自社ブランドのカードを加盟店や配送員に提供しています。

個人的には、次に大きく変わりうる領域として「与信(融資)」に注目をしています。たとえばクレジットカードの場合、旧来の金融機関が自分たちのリスクの取れる範囲で与信を行ってきました。ただこれからは独自のデータやテクノロジーを活用し、既存の事業者ができなかったような与信を実現する専業のプレーヤーが出てくると予想しています。

整理すると、銀行口座情報を活用できるようにして従来の銀行が取り扱っていた金融サービスが使いやすくなるのが最初のステップ。そしてそれを元にどこでも使えるカードを簡単に発行できるサービスが次々と生まれたのがここ数年のことです。その次はこれらのサービスをさらに便利にするための与信にまつわる仕組みが新たに誕生し、付随する領域として保険や投資などにもこの流れが続いてくと考えています。

たとえば2021年10月にはSOMPOホールディングスと損害保険ジャパンがShopifyとタッグを組み、EC事業者を支援する保険を"Shopify上"でローンチしました。これはまさに保険領域におけるエンベデッドファイナンスの事例です。

保険プログラムがShopifyの中に組み込まれているため、EC事業者の方々はいちいち保険会社のサイトに遷移せずとも、使い慣れたShopifyの管理画面からシームレスに保険に申し込むことができます。

GMO-PGの取り組み

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GMO-PGとしても、こうした取り組みには大きな可能性を感じています。
2020年には、グループ会社のGMOイプシロンが昨日までの売上を今日使えるVISAビジネスカード「Cycle byGMO」を新たにローンチし、決済サービスをご利用いただいている加盟店様の事業のグロースをご支援しています。また、GMOイプシロンがイネーブラーとなり、この仕組みをプラットフォーマー向けにもOEM展開することによって、報酬の前払いなどさまざまなシーンで応用できるサービスができるのではないかとも考えています。

私たちも力を入れているように、日本でもメディアなどで少しずつ見かける機会の増えたエンベデッドファイナンス。2022年には国内外でこの流れがさらに本格化していくのではないでしょうか。

話者プロフィール

2017年にGMOペイメントゲートウェイに新卒入社。新規事業領域の事業開発に従事。新規事業開発のため日々世界の金融・決済企業の調査分析を行う。
2020年にGMOイプシロンの売上連動型ビジネスカード「Cycle byGMO」の事業立ち上げに携わる。

▶昨日までの売上を今日使えるVISAビジネスカード

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▶即時発行・自動チャージができるVisaカード発行API

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※本コンテンツ内容の著作権は、GMOペイメントゲートウェイ株式会社に属します。

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